2023年3月8日に技術士倫理綱領が改定されました。この改定は、近年発生した技術者倫理に関わる重大な事象に対応するための取り組みです。
背景には、大規模自然災害や原発事故などのシビアアクシデント、そして組織的な不正行為の多発がありました。また、「The Future We Want」(リオ+20会議の成果文書)やパリ協定の採択により、持続可能な社会の実現が求められるようになっています。
Future We Want」(リオ+20会議の成果文書)やパリ協定の採択により、持続可能な社会の視点が重要視されるようになりました。
本記事では、改定内容を具体的にまとめ、それが技術士にとってどのような意味を持つのかを解説します。
主な改定内容
1. 公衆の利益の優先から「安全・健康・福利の優先」へ
技術士法第45条の2「公益確保の責務」に対応し、公衆の安全、健康、福利を具体的に強調しました。特に安全は、持続可能性と並ぶ技術士の公益貢献の柱と位置付けられ、リスク抑制を優先する形へと変化しています。
例えば、橋梁の耐久性向上では、腐食防止コーティングの導入やモニタリング技術の活用が重要視されています。また、ダムの安全管理システムでは、センサー技術によるリアルタイム監視や老朽化した構造物の適切な補修が求められています。
これらの具体的なリスク評価と対策が求められる場面が増えています。リスク評価手法としてISO31000などの国際規格の活用が推奨されています。
2. 持続可能性の確保から「持続可能な社会の実現」へ
「環境・経済・社会」の3側面を考慮する視点を導入しました。これにより、気候変動以外にも海洋汚染の防止や森林保全、人間らしい雇用の促進といった広範な課題に対応する意識が求められています。
具体例としては、以下が挙げられます:
- 再生可能エネルギーの活用による地域経済の活性化
- 例:地方の風力発電プロジェクトが新たな雇用を生み出すケース
- 建築物の省エネルギー設計
- 例:断熱性能の向上や太陽光発電の導入によりエネルギー消費を削減
- リサイクル資材の使用
- 例:廃材の再利用や低環境負荷の建材採用による廃棄物削減
これらは、持続可能な社会の実現に向けた実践的な取り組みとして期待されています。
3. 信用の保持
技術士法第44条「信用失墜行為の禁止」と第56条「公正な報酬」に対応し、「品位の保持」を「品位の向上」に変更。技術士としてより高いレベルの倫理観を求めています。
4. 有能性の重視
技術士法第46条「技術部門明示の義務」に対応し、自身だけでなく協業者の力量も見極める視野の広さを強調しています。
5. 真実性の保持
表現の変更のみで、大きな改定はありません。
6. 公正かつ誠実な履行
表現の変更のみで、大きな改定はありません。
7. 秘密の保持から「秘密情報の保護」へ
秘密情報に関するリスク管理が強調されました。現代の情報漏えいやランサムウェア被害に対応するため、内部と外部の両面から情報保護を進める必要性が明示されています。
例えば、建設プロジェクトにおける設計データの不正アクセスにより工期が大幅に遅延した事例や、クラウドストレージ上の機密情報が流出し競合他社に悪用された事例が報告されています。
これらのリスクに対応するため、強固なセキュリティ対策や多層的な保護手段が求められています。
8. 法規の遵守等から「法令等の遵守」へ
表現の変更のみで、大きな改定はありません。
9. 相互の協力から「相互の尊重」へ
「業務上の関係者」に対する相互信頼を具体化し、協力関係の明確化を図りました。
10. 継続研鑽から「継続研鑽と人材育成」へ
技術士法第47条の2「資質向上の責務」に対応し、人材育成を倫理綱領の重要なテーマと位置付けました。また、専門技術に加え、品質やマネジメント能力の向上を目指し、定期的な研修や資格取得支援といった取り組みも含まれています。
改定内容のまとめ
- 公衆の安全が強調され、リスク抑制を重視。
- 持続可能性の視点が「環境・経済・社会」の3側面に広がる。
- 秘密情報の保護が強化され、現代的な情報リスクへの対応が明示。
- 人材育成が改めて重要視され、若手技術者の不足への対応が進む。
技術士としての役割や責任がさらに具体化・強化された今回の改定は、より高い倫理基準を目指す一歩となるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
出展:技術士倫理綱領の改定(公益社団法人 日本技術士会)
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